いま きみは どんなかんじだろう

姉妹の末っ子として育ち、親戚は多くても近くにいなかった私は、こどもを自分で産むまでの35年間、こどものお世話をした経験が一切なかった。だから、息子の産声を聞き、初めて抱く我が子に狂おしいほどの愛情が心底湧き上がる一方、その日から未知なる生物との不安だらけの生活が始まった。人間は生まれてすぐは言葉を知らない、理解できない、話さない。かと言って、猫や犬を育てているのではない。すべての当たり前は、わたしにとって当たり前の事象ではなく、息子が泣きやまなければただただ不安で、一緒に泣き崩れてしまうことも多々あった。

イギリスの言語療法士であるサリー・ウォードという女性が書いたこの『0~4歳 わが子の発達に合わせた1日30分間「語りかけ」育児』を書店で手にとったのはこどもを産む前だったろうか、後だったろうか。覚えていないのだけれど、とにかくこの本を購入したとき、ここまでこの本にお世話になるとは思ってもいなかったと思う。この本は結果、育児を前にしてはただの木偶の坊でしかなかったわたしにとり育児の「恩師」のような存在となった。

いわゆる一般的な「育児書」ではないと思う。どちらかというと脳・言語を中心にした乳幼児の発達段階を知ることのできる「解説書」「手引き」というかんじで、0歳〜2歳の頃などは数ヶ月単位で丁寧にこどもの言語の発達過程が記される。初めての育児はまるで恋愛と同じで、憶測ばかりについついなる。「これってもしかして?」とか「いまこの子はどんな気持ちかしら?」とか、とか。そこを冷静に、そして温かい言葉で、あくまでこどものために穏やかなペースを大事にしながら、サリー・ウォード博士は色々解説・指南してくれる。その時期に相応しいこどもへの話し方、接し方、喜ぶ遊び、おもちゃ(既製および手作りも)、そしておすすめの絵本も。賢く育てるためでも、エリートに育てるための本ではない。言語を獲得していく4歳までの時期、どのようにこどもの言葉に耳を傾け、温かい眼差しをおくるべきかを優しく教えてくれる本だった。ことあるごとに、1,2ヶ月経つたびに、「いまきみはどんなかんじかな」と思うたび、こどもが寝静まったころを見計らってこの本を開き、しばし息子の寝顔を見つめた。(よく泣くころ、イヤイヤ期の頃はこどもが寝ている時ほど平和な時間はなかった)そして息子とお話できる日を指折り数えながら過ごした。

先日息子の4歳の誕生日を迎えたときも、やはりこの本を開いた。でも4歳を迎える数ヶ月前ころから、あまりこの本を開くこともないくらい、こどもと意思疎通は取れるようになっていたから「そういえば」と思い出すように引っ張りだしてきた。だから、もうあまり語ることはないといった感じで記されたこの章を確認程度に読んだのだけれど、まるでサリー・ウォードから授与された「卒業証書」のように思えて、最後のページまでなるたけ丁寧に、ゆっくり読み閉じた。

STORY TIME 365

2023年〜▼ 日々の記録。 2019年まで▼ こどもと選んだ、読んだ800冊を超える絵本の記録。読み聞かせや本の選び方、大好きな作家、図書館、美術館、絵本にまつわる日々のこと。

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